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第3回
2026.06.08
アダプテッド体育・スポーツの導入に向けて
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前回は障がいのある子どもたちを取り巻く環境の変遷と、そこから見えてくる「アダプテッド体育・スポーツ」の重要性について述べてきましたが、今回はもう少し具体的に、子どもたちの体育・スポーツ実施を取り巻く状況や、「アダプテッド」の視点を加味した指導・支援のポイントについて考えていきたいと思います。

子どもたちの体力・運動能力の現状

スポーツ庁が毎年実施している「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によれば、現在の子どもたちの体力・運動能力の結果をその親世代である30年前の体格・体力・運動能力等と比較すると、身長・体重については子ども世代が上回っているものの、体力・運動能力については多くの測定項目で子ども世代が下回っており、長期的にみると「体は大きくなっているものの、身体能力は全般的に低下しつつある」といえます。

その主な原因としては、学校外での学習活動の増加や室内での遊び時間の増加、さらに少子化による各種クラブ活動の縮小等による運動・外遊びの機会の減少などが挙げられます。また、近年注目されているのが、子どもたちのスクリーンタイム(テレビ、スマートフォン、ゲーム機器等の画面の視聴時間)の増加です。先に示したスポーツ庁の調査によると、子どもたちの平日の学習時間以外のスクリーンタイムは、小学生・中学生ともに増加している一方で、体育授業を除いた定期的な運動の時間が減少してきています。

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体育や運動・スポーツに対する意識

令和7年度調査の「運動やスポーツをすることは好き」の項目をみていくと、「好き」と回答したのは、小学生男子72.8%、小学生女子54.1%、中学生男子66.0%、中学生女子43.0%となっており、男女別では女子の「好き」の割合が相対的に低いと同時に、男女ともに中学生では「好き」と回答する割合が低下しており、経年でみていくと、女子の「好き」の割合が少しずつ減っています。

運動やスポーツをすることは好き
(スポーツ庁「令和7年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果の総括」より作成)

また、「体育・保健体育の授業は楽しい」という項目では、「楽しい」と回答したのは、小学生男子73.7%、小学生女子57.0%、中学生男子56.5%、中学生女子38.2%となっており、「運動やスポーツをすることは好き」の項目と同様の傾向が見られます。

体育・保健体育の授業は楽しい
(スポーツ庁「令和7年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果の概要」より作成)
一方で、体育・保健体育の授業が「楽しくない」と感じている児童・生徒を対象とした、「今後どのようなことがあれば、今より体育・保健体育の授業が楽しくなると思うか」という質問(複数回答)では、男女ともに小学校、中学校を問わず、「できなかったことができるようになったら」、「自分に合ったペースで行うことができたら」が上位となっています。
以上のことから、子どもたちの運動機会が減少し、体育・スポーツ嫌いの子どもたちが増えているなかで、今後、体育の重要性はより高まってくるものと考えられます。「できた」という成功体験とともに、児童・生徒それぞれに合わせた運動指導、支援がますます必要になってくるといえるでしょう。
障がいのある子どもたちの状況
特別支援学級に在籍する児童・生徒の増加については前回お伝えをした通りですが、通常学級においても何らかの支援が必要な子どもたちが年々増加しています。
文部科学省が2022年に行った調査では、小学校・中学校の通常学級で、知的発達に遅れはないものの、学習面(「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」、「計算する」等)や行動面(「不注意」、「多動性」、「衝動性」等)で著しい困難を示す児童・生徒は8.8%在籍しているとされています。
また、文部科学省の別の調査によれば、令和5年度に通級指導*を受ける小学生、中学生は20万人を超えており、近年大幅に増加しています。こうした状況から通常学級においても、体育のみならず一人ひとりの子どもに合わせた「アダプテッドな」教育的指導、支援が必要となっています。
*通級指導:通常学級に在籍している障がいのある児童・生徒に対して、大部分の授業を通常学級で行いながら、一部の授業については、障がいに応じた指導を通級指導教室で行う指導形態。
通級による指導を受けている児童生徒数の推移(障がい種別)
通級による指導を受けている児童生徒数の推移(障がい種別)
令和2〜5年度の数値は、3月31日を基準とし、通年で通級による指導を実施した児童生徒数について調査。
その他の年度の児童生徒数は年度5月1日現在。(文部科学省「令和5年度通級による指導実施状況調査」より作成)
「エコロジカルモデル」と「アダプテッド」
以下では、これまで述べてきた多様な子どもたちに対する「アダプテッド」の視点を加味した体育・スポーツ指導、支援のあり方について考えていきたいと思います。具体的な指導法を検討するうえで参考になるのが、人とその人を取り巻く環境との相互作用に焦点を当てた「エコロジカルモデル」の視点です(下図参照)。
エコロジカルモデルとアダプテッドの関連性
「エコロジカルモデル」と「アダプテッド」の関連性
「アダプテッド体育・スポーツ」は「個々人に合わせた体育・スポーツ」実践であるといえますが、では、何を、どのように合わせればよいのでしょうか。重要となるのは、図中にある①課題調整、②環境調整、③動機づけです。取り組んでいる課題の難易度が本人にとって適切であるのか、運動量が適度に確保されているのか等、柔軟な調整が必要となります。また、個人を取り巻く環境にも目を向けて、物的・人的資源がどれだけ確保されているのか、どのような工夫で充足することができるのかについても検討することが重要となります。
以上の課題、環境の調整を視野に入れながら動機づけし、そこに個人の特性を加味していくことで、よりよい指導、支援が可能となっていくのではないでしょうか。
指導・支援時の工夫
最後に、アダプテッド体育・スポーツ指導を考えるうえでの具体的なポイントを挙げていきたいと思います。
「わかる」実感がもてる工夫
発達障がいや知的障がいのある子どもたちにとって、活動や実践に関する説明が長すぎて「わからない」、表現が抽象的で「わからない」、動きの模倣のしかたが「わからない」といった状況が生じることがあります。そこで、以下のような工夫によって、より充実した活動につながる可能性があります。
① 活動の見通しがもてる工夫(視覚情報の充実、活動のルーティン化等)
その日の活動について、具体的なスケジュールを文字としてホワイトボード等に提示しておくと見通しが持ちやすくなります。また、活動の全体の流れや準備運動等について、ある程度ルーティン化しておくことで安心して活動に取り組むことができます。
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② 課題の視覚化・表現の具体化
「ここまで走りましょう」、「こうやって○○します」といった表現を使ってしまうと、活動に対する理解が深まらず子どもたちが混乱してしまう可能性があります。カラーコーンやマーカーコーン等を設置してゴールを明確にすることや、動作を細分化して明確に言語化することが重要です。
「できる」実感がもてる工夫
前述のように、運動が苦手な子どもたちや何らかの障がいがある子どもたちにとっては、体育や各種の運動機会において、「~ができる」という経験が不足しており、苦手意識を持ってしまっているかもしれません。では、どのように工夫をすれば、子どもたちに「できる」、「やってみたい」と感じてもらえるのでしょうか。
① 発達状況・興味関心を把握する
まずは、子どもたちそれぞれの障がいの有無や身体的特性、運動発達の状況等を適切に把握したうえで、適度な課題設定を行うことが重要です。また、発達障がい、特に自閉スペクトラム症傾向のある子どもたちは、こだわりの強さが特性としてみられる場合がありますが、個々の興味・関心を見極めて、特性を活かしたルール設定や用具選定、環境調整等が必要となります。
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② 「スモールステップ」の意識
運動スキルを習得する際に、障がいのある子どもたちや運動が苦手な子どもたちに対して、課題を細分化したうえで段階的に提示し、小さな「できた」という経験を積み重ねていくことで、主体的に運動に取り組んでもらえるようになるかもしれません。
今回は子どもたちの運動·スポーツ、体育を取り巻く状況や、「アダプテッド」の視点を加味した指導·支援のポイントについてみてきましたが、次回は運動·スポーツ、体育等の具体的な実践場面における工夫や、指導のアイデアについて紹介していきたいと思います。
参考資料
※図「「エコロジカルモデル」と「アダプテッド」の関連性」は澤江,2018を一部改変
執筆 河西正博(同志社大学准教授)
河西正博
神戸医療福祉大学、びわこ成蹊スポーツ大学を経て、2017年より同志社大学スポーツ健康科学部助教、2025年より現職。障がい者のスポーツ参与と障がい意識、スポーツ場面における障がい者・健常者の関係性に関する研究等に従事。2014年アジアパラ競技大会バドミントン日本代表コーチ、(一社) 日本体育・スポーツ・健康学会アダプテッド・スポーツ科学専門領域評議員、日本アダプテッド・体育スポーツ学会理事。
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