教科書いまむかし
教科書紹介 小学校算数編
5平成元年(1989年)
学習指導要領社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成
平成元年に改訂された学習指導要領では、総則において「自ら学ぶ意欲」「社会の変化に主体的に対応できる能力」といった記述がなされ、いわゆる「新しい学力観」が打ち出されるとともに、個性を生かす教育が強調されました。また、小学校1、2年の理科と社会が廃止され、新たに「生活科」が新設され、中学校では選択教科が導入されています。
算数・数学科では、数学的な見方・考え方の「よさ」、進んで生活に生かす態度などが強調されるとともに、個への対応、コンピュータの活用などが重視されました。また、中学校数学科では課題学習が取り入れられました。
大日本図書では、平成4年に「たのしい算数」を発行し、その後平成8年、12年に改訂をおこなっています。
ここでは、平成4年発行の「たのしい算数」を紹介します。
国立教育政策研究所
「学習指導要領データベース」
平成4年(1992年)版 たのしい算数 1〜6下
平成4年版の基本方針は次の5点です。
- ◦基礎的な知識や技能を身につける。
- ◦数学的な考え方を伸ばし、創造的な能力と態度を育てる。
- ◦算数のよさがわかり、生活に生かせるようにする。
- ◦ひとりひとりの着想や解決を大切にする。
- ◦活用しやすい教科書づくりをめざす。
この時代より前の算数教科書で、4年以上は口絵の1ページを除いて2色か1色で印刷されていましたが、この時代からフルカラーのページが増えています。また、1年同様に2、3年の教科書もB5の大きい判になりました。
目次をよく見ると、中・高学年では学期末や要所要所に、単元ではない「特設」ページが設けられていることもわかります。
学習内容の特徴
学習内容としては、この時代から4位数までの加減、×3位数などが削除されました。逆に、「3位数による除法」「敷きつめ」は追加されました。特に敷きつめについては、この時代の学習指導要領で初めて登場した学習内容です。
また、中学校から移行した内容としては、「最小公倍数、最大公約数」「柱体や錐体とその表面積など」があります(それまでは、公倍数、公約数までが小学校の扱いでした)。
計算器の扱い
現代化の時代の指導要領では、「なお、計算の技能に関して、そろばんまたは簡単な計算器などによる乗法、除法の指導を、必要によっては、第4学年以降において行なうことはさしつかえないが、この場合には、他の内容の指導に支障が起こらないようそれに充てる授業時数等について配慮するものとする」とされていた「計算器」ですが、この時代の学習指導要領では、「統計的に考察したり表現したりする際に大きな数を多く取り扱う場面や小数の乗法及び除法で計算法則が成り立つかどうかを確かめる場面などで、計算の負担を軽減し指導の効果を高めるため、そろばんや電卓等を第5学年以降において適宜用いさせるようにすること」と記述され、教科書に初めて「電卓」が登場しました。
特設ページ
この時代から、数学史などの面白い話題を紹介したり、直観力や論理的な思考力を育てる問題に取り組んだりする「特設ページ」が設けられるようになります。本文の学習内容と関連させながら、子どもの興味・関心を高めたり、数学的な考えを深めることが意図されています。
多様な考え方の提示
現在の算数教科書では一般的になっている、複数の考え方の提示もこの時代から登場しています。児童の多様な考え方をそれぞれ大切にし、個に応じた学習指導を展開することを意図しています。
平成8年(1996年)版 新版 たのしい算数 1〜6下
平成12年(2000年)版 新訂 たのしい算数 1〜6下
単純な幾何学図形を使った動物たちが表紙です。どことなくモダンな雰囲気が感じられます。
小学校算数の教科書の変遷