教科書いまむかし
教科書紹介 中学校数学編
7平成20年(2008年)
学習指導要領「生きる力」の育成、基礎的・基本的な知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力等の育成のバランス
平成10年改訂の学習指導要領のもとでは、学習内容が削減されたことや、大学入試科目の縮小などに関連して「学力低下」が叫ばれるようになり、国際的な学力調査でも、読解力、活用力などについて課題があることなどが明らかになりました。また、情報化が進む社会において、幅広い知識の習得とそれを活用する思考力・判断力・表現力などが求められるようになりました。
こうした情勢をふまえ、平成20年に告示された新しい学習指導要領では、「基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得」と「思考力・判断力・表現力等の育成」の2つをバランスよく達成することが目指されました。「理数教育の充実」、「言語活動の充実」などが掲げられ、算数・数学に関しては授業時数が増え、学習内容の拡充がはかられています。
学習指導要領の目標に加えられていた「数学的活動の楽しさ」が「数学的活動を通して」とさらに重視され、学習指導要領の内容において、それらの具体的な例が示されました。「数学的活動」とは、生徒が目的意識をもって主体的に取り組む数学にかかわりのあるさまざまな営みを意味すると記述されています。
授業時数は、1年と3年が週3時間から4時間に増加し、学習内容の充実がはかられました。「数と式」領域では、「数の集合と四則計算の可能性」、「有理数と無理数」、「二次方程式の解の公式」などを扱うこととなりました。「図形」領域では、「図形の移動」や「立体の投影」、「相似な図形の面積比と体積比」、さらに「関数」領域では、「いろいろな事象と関数」など、以前の指導内容が戻ってきています。従来の学習内容が戻っただけではなく、「資料の活用」領域が新たに設けられ、1年に「資料の整理と活用」、3年に「標本調査」が位置づけられました。
また、平成20年12月には文部科学省の教科用図書検定調査審議会により「教科書の改善について」が報告され、今後は教科書の質・量両面での充実を目指すべきとの考え方が示されました。補充的な学習や発展的な学習に関する内容を充実させること、基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう既習内容の反復学習や練習問題などによる繰り返し学習に関する記述を充実させることなどを求められています。
この答申のなかでは、『多くの教員や保護者の間に定着している「児童生徒は教科書に記述されている内容をすべて学習しなければならない」とする従来型の教科書観については、「個々の児童生徒の理解の程度に応じて指導を充実する」、「児童生徒が興味関心をもって読み進められる」、「児童生徒が家庭でも主体的に自学自習ができる」といった観点から、教科書に対する考え方を転換していくことが求められる』と述べられており、これまでの教科書観とは明らかに変わってきていることが読み取れます。
大日本図書では、平成24年に「数学の世界」を発行し、平成28年に「新版 数学の世界」を発行しました。
国立教育政策研究所
「学習指導要領データベース」
平成24年(2012年)版 数学の世界 1〜3
平成24年度版の基本方針は以下の3つです。
- ◦授業に生きる教科書
- ◦豊かな学習を生み出す教科書
- ◦読みやすく、使いやすい教科書
生徒が授業以外の場面でも教科書を使って主体的に学習することができるよう、自分で取り組むページとして位置づけられた豊富な題材を取り扱っています。
数学的活動
平成20年告示の学習指導要領では、各領域の学習やそれらを相互に関連づけた学習において数学的活動に取り組む機会を設けることが重視され、「既習の数学を基にして、数や図形の性質などを見いだし発展させる活動」、「日常生活や社会で数学を利用する活動」、「数学的な表現を用いて、根拠を明らかにし筋道立てて説明し伝え合う活動」の3つの活動が例示されました。教科書紙面においては、「数学の世界へようこそ」として数学的活動を通して学ぶことを伝えるとともに、典型的な活動の場面には数学的活動のマークをつけています。
利用の節
平成24年版「数学の世界」では、学んだことを活用する「利用の節」を全ての章に設けています。数や式、図、表、グラフなどを用いて考えることや表現することのよさを実感できるようにしています。また、多様な考え方を紹介し合ったり、ほかの人の考えを読み取ったり、自分なりに説明したりする活動を設けています。
社会にリンク
各章の最終ページには「社会にリンク」として、実社会に生きる人物から生徒たちへのメッセージを掲載しています。数学を学ぶよさを実感し、未来につながっていることを感じることができるようにするための工夫です。
自分で取り組む課題の充実
章末には「いろいろな問題」、「考えてみよう」、巻末には「学習の準備」、「挑戦しよう」、「まとめの問題」など、自分で取り組む課題として、さまざまな問題のページを設けています。教科書の質・量両面での充実により、各学年とも大幅にページが増えました。
「Mathful―マスフル-」
各学年の巻末には、生徒が自分で読み進めることができるように「Mathful―マスフル-」という読み物のページを設けています。タイトルの「Mathful」は、「数学がいっぱい」という意味を込めた造語です。
数学に関連するさまざまな話題や本の紹介、数学者の紹介、図形パズルなど、数学を身近に感じられるような題材で構成されています。
平成28年(2016年)版 新版 数学の世界1〜3
中学校数学の教科書の変遷