教科書いまむかし
教科書紹介 小学校理科編
1昭和22年(1947年)
学習指導要領(試案)生活単元学習
学習指導要領(試案)が昭和22年に告示されました。それに合わせて、大日本図書からも小学校理科の教科書が発行されるようになりました。
この期の学習指導要領は、児童・生徒の環境にある問題を、児童・生徒自身で取り上げるという理念のもとで作成されました。日常生活の中から問題を選んで(生活単元型)、それを解決していくスタイル(問題解決型)の単元構想になっています。
また、昭和22年の学習指導要領(試案)の他期とは違う最大の特徴は、理科の指導目標の大項目の中に「自然」という言葉が登場しないことです(例えば、平成29年版学習指導要領の理科の場合、約200文字で記述された目標の中に「自然」という言葉が4回も登場します)。そして、「すべての人が合理的な生活を営み、いっそうよい生活ができるように…」という文言が使われており、戦後の生きる事だけで精一杯であった時代背景が伝わってきます。
ここでは昭和25~26年版『たのしい理科』を紹介します。
国立教育政策研究所
「学習指導要領データベース」
昭和25〜26年(1950〜1951年)版 たのしい理科(1年1〜第6学年用E)
大きさはA5判、1〜3年は各学年2分冊(書影はありません)、4〜6年は大きな単元を1つないし2つ収録した分冊になっています。
単元内容は「すべての人が合理的な生活を営み、いっそうよい生活ができるように…」の文言通り、学びと生活が繋がるような構成になっています。
そして、最大の特徴は本のタイトルです。以降の教科書は、学年ごとに1冊もしくは上下巻の2冊になっているものがほとんどですが、この時代の(第4学年以降の)教科書は単元名がそのままタイトルになっています。例えば、小学校6年第5巻「電気はどう利用しているか 乗物はどうして動くか」は、1冊丸々、発電を含めた電気の利用方法について学ぶというテーマになっています。
「かんでんちはどんなはたらきをするか」|たのしい理科 第4学年Ep.12〜p.15
この巻では、町の模型に電燈をつけようと思った太郎と秋子が、初めて扱うの乾電池と豆電球に苦戦しながら、回路や直列・並列について学んでいきます。
途中「ぼくはかんでんちです」「ぼくたちかんでんちのねがい」という乾電池を主役にした手法が用いられています。
内容には、6年の学習にリンクしたものも多く見られます。
「火と熱はどうつかったらよいか」|たのしい理科第4学年D
おふろがわいたと思ったのに、かき混ぜるとまだ全体はぬるま湯だった経験を導入にして、現在も取り扱う「お湯の沸騰」や「水の三態変化」に加え、薪、炭、練炭などの「燃料の種類」やそれぞれの特徴を学び、「煙の出ない火おこしの方法」「燃料を無駄にしない火消しの方法」まで考えるという構成になっています。まさに合理的な生活を行うための教科書です。
「どうしたらじょうぶなからだになれるか」|「たのしい理科第4学年F
この巻では、現在の保健領域の内容が多く扱われています。昭和22年の学校体育指導要領では、「衛生」の領域で病気の予防として「むしば」を扱うこととされていますが、ここでは「歯」の構造を図示しながら、むしばにならないためにはどうしたらよいか、理科的なアプローチで考えていきます。
「すまいときものは健康にどんな関係があるか」|たのしい理科第5学年E
この単元では、まず、夏すずしくするには、また、冬暖かくするにはどうしたらよいかを、気温や湿度、風通しなどを材料に考えていきます。続いて、住まいや着物を清潔に保つ方法、どんな住まいや着物を選んだらよいか、について考える構成になっています。理科の教科書ながら家庭科寄りの内容まで含まれていて、教科横断的な学びが期待できます。
「伝染病を防ぐにはどうするか」|たのしい理科 第6学年E
小学校理科の最後の単元です。予防注射の薬のつくりかた、伝染病のうつりかたなど、健康に暮らすために知っておきたい内容が丁寧に扱われています。
昭和27年(1952年)版 たのしい理科 新版 1-1〜6-2
昭和27年に学習指導要領が改訂されました。「改訂の主な点」に「まず第一に述べておきたいのは,理科教育の根本方針は変わっていないことである」とあるように、昭和22年版と基本的な方向性は変わっていませんが、内容が整理され、より詳しく書かれたものになっています。
また、「この本を使うときの注意」に「この本は教師にこうしなければならないことを命令したものではない」と明記されていることも、試案ならではの特徴です。
理科の目標は「すべての人が合理的な生活を営み,いっそうよい生活ができるように…」から「科学的合理的なしかたで,日常生活の責任や仕事を処理することができる」と書き換えられましたが、内容は大きく変わらず、引き続き「学びと生活が繋がるような構成」になっています。
昭和28年には「理科教育振興法」が公布され、国民の生活における科学の重要性が見直されました。
大日本図書では、たのしい理科シリーズの改訂版として、昭和29年に『たのしい理科 改版』、昭和34年に『たのしい理科 三訂版』を発行しました。
ここでは昭和29年版『たのしい理科 改版』を紹介します。
国立教育政策研究所
「学習指導要領データベース」
昭和29年(1954年)版 たのしい理科 改版 1年-1〜6年-2
昭和27年版からは単元名を全面に出した形式ではなく、『たのしい理科』というタイトルのみが表紙に掲載されるようになりました。しかし、内容は、生活に密着したテーマから学習を進める構成のままです。
12.自転車はどんなしくみで動くか|たのしい理科 改版5年-2|p.53〜p.68
この単元では、学習指導要領の「機械や道具のしくみやはたらきを理解し,日常生活に,それらを合理的に使うことができる。」という指導目標に対応するものの一つとして、15ページにわたって自転車の仕組みについて語られています。
ハンドルやクランクで「てこの原理」を説明することを筆頭に、ブレーキでは「摩擦」、車輪の「ジャイロ効果」、スポークで「ものの構造」、スタンドでは「3点の安定性」、タイヤの「空気圧」、サドルによる「力の吸収」とたくさんの科学の話に広がっていき、最後は「7.自転車にはどんな手入れが必要か」とメンテナンスの話で結ばれます。
家に帰って自転車に乗ったときに、学校で学んだことを思い出す仕掛けが散りばめられ、学びと生活が繋がる内容構成になっています。
4.どんな食べ物や食べ方が健康によいか|たのしい理科 改版5年-1|p.51〜p.72
この単元は、学習指導要領の「食べ物や食べ方の健康に対する影響を理解し,食生活を合理的にしようとする。」という指導目標に対応するものです。
「1.ようぶんにはどんなものがあるか」で5大栄養素などを扱い、「2.よい飲み水はどうしたら得られるか」では井戸や水道を取り上げます。続いて「3.よい食べかたをするにはどうしたらよいのか」では消化、「4.食べ物はどのようにたくわえたらよいか」で保存食などが紹介されます。
5.生物をどのように利用し保護しているか|たのしい理科 改版5年-1|p.73〜p.96
この単元は、学習指導要領の「生物が日常生活に貢献することを理解し,生物の保護に協力する。」という指導目標に対応するものです。
「1.鳥やけものはどのように私たちの生活に役にたっているか」では、食用、着物の原料のほか、荷物を運ばせたり、血清をとったり、害虫を駆除したりと、さまざまな場面で役立っていることを紹介し、「2.鳥やけものをどのように保護したらよいか」、「3.そのほかの動物をどのように保護し利用しているか」へと展開する。動物の話題から「4.森林をどのように保護し利用しているか」「5.そのほかの植物をどのように利用しているか」と、植物へ進め、最後に「6.生物はどのように改良されてきたか」では品種改良にまで広がります。
8.どんな着物が健康によいか|たのしい理科 改版5年-1|p.125〜p.134
この単元は、学習指導要領の「(すまいや)着物の健康に対する影響を理解し,それらの健康によい使い方を身につける。」という指導目標に対応するものです。
「1.季節にあった着物にはどんなものがあるか」では、空気を多く含む布ほど、赤、黒、茶色などの色の濃い布ほど暖かいので冬に向いていることを実験を交えて紹介しています。「2.布地にはどんな性質があるか」では、素材とその織り方にも注目して性質をまとめ、「3.着物はどうすればせいけつになるか」では、石鹸水、湯、あく水、洗濯ソーダ、揮発油で汚れの落ち方を実験で確かめます。「4.着物の手入はどんなにしたらよいか」で、虫や湿気の防ぎ方を紹介し、「5.どんな着物をえらんだらよいか」で結んでいます。
昭和34年(1958年)版 たのしい理科 三訂版 1ねん〜6年-2
小学校理科の教科書の変遷