わたしと教科書
表紙制作の想い出

私は,入社以来32年間中学校数学の教科書を担当してきました。改めてこの32年間を思い起こしてみると,入社して間もない頃の著者の先生方との原稿審議での議論や文部省の教科書調査官とのやりとりなどの思い出がよみがえってきます。

私は物理科専攻出身でしたので,数学の式表現については何の抵抗も感じることなく,定義や解説の表現や言い回しなどについてはさほど気にもしておりませんでした。しかし,原稿審議が始まると,特に定義やまとめの文章には1字1句に至るまで議論がなされ,数学の言葉の厳密さに驚きました。

その1例として,ある年度の教科書を改訂するときに,執筆著者の代表と日常生活ではあまり使われなくなった数学独自の表現を変えようという方向で,「Aとは,」を「A,」のように後の「と」を省くように改めました。すると,監修の先生が校閲された原稿には,修正したすべての箇所に赤いフェールトペンで赤字が入り,「どのような表現の時に「と」を入れるかの基準を明確にせよ」との指示をいただきました。現在の教科書でもこの基準にそった表現は残っています。

平成18年度版 中学校数学2年

それと,今の会議でも話題になっているのが,「おのおの」と「それぞれ」の使い分けです。「対角線はおのおのの中点で交わる」と「対角線はそれぞれの中点で交わる」との違いは?大日本図書は前者です。興味のある方は辞書を引いてみてください。

数学を言葉を使って表現することの厳しさを実感した例です。