新版 理科の世界 WEBコンテンツ 課題研究・自由研究にチャレンジしよう

 課題研究といわれても何をどうしたらよいのだろう。そうとまどっている人もいるかもしれません。でも,みなさんは今までにいろいろな研究をしてきたはずです。好きなアーティストについて調べたり,作曲したり,スポーツで記録を上げる方法や戦術を調べたり,試してみたり。調べる,作る,試す,考える,これらは研究の方法です。うまくいかないときは何度もやり直したり,試したりしたことでしょう。こうした試行錯誤も,研究を進める上でとても大切なことです。

 では,実際に理科の課題研究はどのように進めていけばよいのか。順を追ってみていきましょう。

Ⅰ テーマの選び方

優れた研究は,慎重に練られた研究テーマから生まれます。テーマが決まれば研究の半分は終わったといってもいいほどです。しかし,単に難しい研究を選べばよいわけではありません。自分に合ったテーマを見つけて,研究しましょう。

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1 テーマ選びの手がかり

自分に合ったテーマといわれても,そう簡単に見つからないかもしれません。次のことを参考に決めていきましょう。

  • 理科の学習の中で面白かったこと,興味を持ったことを調べる。
  • 日常の生活の中で気づいたこと,どうしてだろうと思ったことを調べる。
  • 教科書巻末の自由研究を参考にする。
  • 市販されている自由研究に関する書籍や,科学関係の雑誌を参考にする。
  • 科学館や博物館に見学に行き,テーマを考えたり,学芸員の人に相談する。
イメージ:テーマ選びの手がかり

2 研究内容からテーマを考える

研究内容を次のように分けると,自分のテーマの方針が決まるかもしれません。

実験を行い,結果をまとめてきまりや傾向,特徴などを見つける。
  • 石けんや洗剤の泡立ち方を調べる。
  • 洗濯物の乾き方を調べる。
  • 化学実験をおこなうときには,危険な薬品を勝手に使ったりしてはいけません。また,器具のまちがった使い方による事故にも注意しましょう。
一つのことを継続的に観察したり,多くのことを観察して,記録をまとめる。
  • 植物や動物の成長のようすを観察する。
  • 地域に生育している草の種類を調べる。
  • 継続的な観察には時間がかかります。
    研究期間を十分とって,根気よくとり組みましょう。
 イメージ:研究内容からテーマを考える
作品製作をしたり,模型をつくる。
  • 風呂ブザー(水がいっぱいになったり,風呂がわいたときに音を出す)をつくる。
  • 電子目覚まし時計をつくる。
  • 店で売っているものをそのまま組み立てただけでは作品とはよべません。どのような工夫をするか,完成した作品を使って何を研究するのかが重要です。
採集したものを標本にまとめる。
  • 植物採集を行い,分類して標本にまとめる。
  • 河原の岩石を集め,標本をつくる。
  • 標本採集では,立入禁止区域,採集禁止区域に注意します。国立公園内では,生物,岩石などの採集はいっさい禁止されています。また,危険な場所での採集はやめましょう。

Ⅱ 研究の進め方

テーマが決まっても,慌てて研究を始めてはいけません。自分の研究目的に合った研究計画を立てることが,事故を防ぎ,効率的な研究につながります。ノートを1 冊用意して,計画から,方法,結果の記録,自分の考えやメモを書いていくとよいでしょう。

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1 研究の目的をはっきりさせる

研究によって明らかにしたいことは何か,具体的なイメージを持つことが大切です。

 同じ「洗濯物の乾き方」というテーマでも,乾きやすい素材を調べることが目的かもしれませんし,早く乾くための条件や方法を調べることが目的かもしれません。あるいは,洗濯物はどの部分から乾いていくかを調べることもできるでしょう。

 植物採集をテーマにした場合でも,どんな植物をどのように集めるのかは,研究の目的によって変わってきます。

 自分は何を調べていくのか,できるだけ具体的なイメージを持ちましょう。

2 研究方法を決める

研究目的を明確にしたら,それに合わせて,実験器具などの準備,具体的な観察・実験・調査の進め方を考えます。

 たとえば,植物採集を進めるとき,目的がちがうと調査の進め方も次のように変わってきます。

ある決まった場所の植物の種類を調べる場合

 採集場所を限定し,そこに生えている植物の種類をできるだけ多く採集して標本をつくります。植物名を一覧表にしたり,どのような植物のなかまが多く見られ,どのように分布しているかなどを調べ,まとめていきます。

2か所以上で採集して比較する場合

 2 か所以上で採集して標本をつくります。できた標本を比較して,その違いや共通点を発見して,まとめていきます。違いや共通点は,なぜ生じたのか考えることも大切です。

環境測定を行い,生育条件を比較する場合

 採集場所の気温・湿度・明るさ・日当たり・肥料・土壌の種類などの環境条件を測定します。どの環境条件が植物の生育の違いに関係しているかを考え,まとめていきます。継続した観察では,生育条件を変えることで成長がどう変化するかなど,ポイントをしぼってみるとよいでしょう。

イメージ: 環境測定を行い,生育条件を比較する場合

測定条件は一つずつ変える

 『温度・湿度が高く,日当たりのよい場所で肥料を与えて栽培したヒマワリは,温度・湿度が低く,日当たりの悪い場所で肥料を与えずに栽培したオクラよりも大きくなった。』

 このような研究結果からは,植物の生育に影響を与えるのは温度なのか,湿度なのか,日当たりなのか,ということを見いだすことはできません。日当たりの影響が調べたいのなら,それ以外の環境条件をできるだけ同じにしておくことが重要です。

 実際には,一つの条件だけを変え,他の条件を同じにしておくのは難しい場合があります。しかし,できるだけ条件が同じになるように工夫して調べるようにしましょう。

 たとえば,洗濯物が気温(温度)が高いほど早く乾くことを確かめるには,次のようにするとよいでしょう。

同じ洗濯物で比較する

 洗濯物は,同じもの(たとえば白いハンカチ)を用意し,同じ程度湿っているようにします。そして,異なる気温の日に洗濯物をおき,乾くまでにかかる時間を比べます。

気温以外の影響を考える

 湿度,風の向きや大きさ,日の当たり方など,気温以外にも乾き方に影響する条件をあらかじめ検討しておきます。こうした条件について観測時に記録しておけば,それらの条件ができるだけ同じになった日を比較することで,洗濯物の乾き方と気温の関係についての結論が導き出せます。

3 結果を記録する

結果を正確に記録しなければ研究の成果はありません。面倒がらずに,そのつど記録するようにします。記録はノートに文章で書いたり,写真やビデオを撮影したり,スケッチを描いたり,標本を作製したりとさまざまです。

 次のような点に注意して,結果を記録しましょう。

文章で記録するときは,事実を正確に書く。

 新聞記事では,いつ,どこで,だれが,なにを,なぜ,どのようにが大切だといわれます。観察や実験の結果を記録するときも同様です。見たこと,調べたことをできるだけそのまま記録します。

イメージ: 文章で記録するときは,事実を正確に書く。
項目をはっきりさせて記録する。

 あらかじめ調べる項目をはっきりさせておき,結果を記録するための表などを準備しておきます。重さ,時間,温度など,数量で調べる場合は,正確に測定します。色や形,大きさの変化なども見のがさないようにし,写真などで記録するのもよいでしょう。

採集した場合は産地をはっきりさせる。

 産地のわからない標本に価値はありません。メモ帳や地図に記録しておきます。採集場所周辺の写真を撮っておくのもよいでしょう。

イメージ:採集した場合は産地をはっきりさせる。
採集した標本は早いうちに整理する。

 せっかくの標本にカビが生えたり,虫がついたり,枯れたりしては何もなりません。採集品は十分乾燥させた後,台紙にはって整理しておきます。

4 結果を見直す

観察や実験の結果を見ていくと,新たな疑問が生まれてくることがあります。その疑問を解決するための方法を考え,新たな課題にとり組んでいきましょう。

 また,観察・実験・調査が思うようにいかないことも多くあります。そのときはどのように解決すればよいでしょうか。次のことをチェックしてみましょう。

観察や実験の方法はよかったか

 予想したような結果が出てこないとき,その原因は実験方法がよくなかったからかもしれません。一方,自分の思いこみで正しくないと判断しているだけで,本当は正しい結果なのかもしれません。書籍などで調べたり,先生に相談したりして原因や解決方法を検討しましょう。

薬品や器具は適切か

 実験・観察には,その目的にあった器具を選ぶことも大切です。たとえば,水中の微生物を見るのに,顕微鏡を使わず肉眼で見ていてはよくわかりません。薬品を使う場合は実験の目的にあったもので,適切な濃度で使っているか確かめましょう。

 実験器具は,正しく使用しなければ正確な結果は得られません。たとえば,電子部品をハンダ付けするとき,ハンダごてを長く当てていると部品が加熱しすぎて破損することがあります。

事前の準備が不足していなかったか

 植物採集や地層・化石の調査のような屋外での活動では,事前の調査が必要です。交通機関を利用するときは,路線や時刻,運賃などを調べておきます。

 自然の多い地域へ行く場合は,実際に出かけていったとき,危険な場所であったり,立入禁止区域だったりして,調査に適さないことがわかることもあります。そのときは,無理をしないで別な場所での調査を検討しましょう。

インターネットの活用

 研究を進めていくとき,結果をまとめるとき,インターネットから情報を得ることがあるかもしれません。そのときは次の点に気をつけましょう。

ウェブサイトにある説明や写真は,そのまま使ってはいけません。

それらを参考に,工夫をしたり,見方や考え方を書いたりすることが大切です。

ホームページの内容が正しいという保証はありません。

複数のサイトで調べたり,その内容でよいのか先生に確認したりしましょう。

イメージ:インターネットの活用

Ⅲ レポートの書き方

研究は,レポートにまとめることで命を吹き込まれることになります。せっかく長い時間をかけて研究しても,まとめ方がうまくいかないと,研究は台無しになってしまいます。次のようにしてまとめていきましょう。

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1 レポートを書くときの注意点

レポートは,自分の研究をほかの人に知らせるためのものです。研究内容を知らない人が見てもよくわかるように,次のような点に気をつけましょう。

文章は簡潔に,ていねいに書く。

 研究で明らかになった事実は「〜だった。」,自分で考えたり推測したりしたことは「〜だろう。」のように区別して表現する。

レポートはカラフルに

 鉛筆だけで書くよりも,研究のポイントなどは色鉛筆やサインペンを使って強調したり,見やすくしたりしましょう。

さまざまな表現方法を

 研究内容を充実させるためにも,イラスト,表,グラフ,スケッチ,写真などをどんどんとり入れましょう。

イメージ:さまざまな表現方法を

2 レポートの内容

レポートには,次の①〜⑦の項目をつくって書いていくのがよいでしょう。

表紙・研究テーマ

 表紙は作品の顔にあたる部分です。表紙には目立つようにはっきりと研究テーマを書きます。より簡潔で研究内容がおおよそわかるようなことばを工夫しましょう。内容のわかるイラストがあれば表紙がさらにひきたちます。

研究の動機

 なぜこの研究をするようになったのかを書きましょう。100 〜 200 字程度の分量で簡潔にまとめるのがよいでしょう。たとえば,「家では,風呂をわかすのは僕の仕事だが,うっかり水をあふれさせてしまうことが多い。そこで,水が適量になったことを音で知らせる“満水報知器”の製作を思いついた」といった具合です。

準備物

 使用した道具や器具とその数を書きます。大きさが決まっていない材料ならその大きさも書きます。道具・器具を自作した場合は,つくり方や使い方も書きましょう。

研究(製作)方法

 方法は,他の人がやっても正確に同じことができるように書かなくてはいけません。観察や実験,調査,工作などの手順は箇条書きにします。実験図や写真を使用するとわかりやすくなります。

研究結果

 グラフ,表,図,写真,スケッチ,イラストなどを使って,研究結果を簡潔にまとめます。野外調査を行った場合は,場所や日時も結果の一部です。

 当然のことですが,わかりやすくするためにデータを直したりしてはいけません。

考察とまとめ

 研究のもっとも大切なところです。みなさんが行った研究の結果から,どのようなことがいえるのかをまとめます。自分の考えを十分に入れて書いてほしいところですが,予想に合わせるための無理な考察にならないように気をつけましょう。一つ一つの考察の後,全体としてのまとめも忘れないようにします。

反省および今後の発展

 自分のやった研究について,苦労した点や失敗したことなど自由に感想を書きます。また,研究に関しての改良点や,今後深めていきたいことも考えて書きます。

3 資料など

標本や工作物などは,レポートに欠かせない大切な資料です。図,表,写真などはレポートに貼はりつけるとかさばるので,レポートとは別に「資料」としてまとめます。このとき,その資料がレポートの本文のどの内容と対応しているものであるかを,レポートと資料の両方に明示しておきましょう。

 資料は多ければよいわけではないので,研究の目的に合ったものを選びましょう。

 理科の研究で一番大切なのは,自分が抱いた疑問を解決するために,どんなことをすればよいのかを絶えず考え続けることです。中には「宿題だからしかたない」という気持ちで研究にとり組んでいる人がいるかもしれません。しかし,そんな気持ちでは,決して充実した研究はできません。自然のあらゆる事象に疑問と興味・関心を持ち続け,それに少しでも近づこうという気持ちを忘れないようにして,今後も課題研究にとり組んでください。