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O君

どのような仕事をしていますか。

「防災科学技術研究所」(防災科研)という組織で,しんなみ,火山の観測をしたり,観測したデータをぶんせきしたりしています。
気象庁が発表するきんきゅう地震速報や津波警報などにも,私たちの観測データが多く使われています。

インタビュー
O君

どうしてこの仕事についたのですか。

学生のとき,コンピュータを使ったシミュレーションに興味をもっていました。地震学は,実はシミュレーションが重要な役割を果たす分野であったことから,この分野にたずさわるようになりました。
当時はコンピュータの中でシミュレーションする研究をしていましたが,防災科研で働くようになってからは,学生時代の研究に実際のデータを使い,防災につなげる研究をしたいと思うようになりました。
今はどちらかというと,シミュレーションよりも,私たちの研究をどのように使えば人の命を救うことにつながるか,がいを少しでも減らすにはどのようにすればよいかということを研究しています。

インタビュー
O君

仕事のやりがいはどんなところですか。

災害による被害を減らし,一人でも多くの人の命を救うことにつながる研究をしていることに非常に大きなやりがいを感じますし,それを心がけて研究しています。
また,新たな観測をすると,未知のデータがとれたり,新たな現象が解明されたりすることがあります。
このように,研究によって新しいことがわかることもやりがいです。

インタビュー
O君

実際に,被害を減らすことができたと感じたことはありますか。

災害については,この技術でこれだけの人の命を救えたということを,直接,正確に見積もることは難しいのですが,私がこの仕事に携わるようになってから,もう20数年経ち,その間に観測地点の数はとても増えましたし,観測の技術も上がりました。
それらの積み重ねが,たとえば緊急地震速報を実現することにつながり,今やそのような技術がない社会が想像もできないほどになりました。
これら開発された技術によって,日本は災害にすごく強い国になったと思います。

インタビュー
資料0

防災科研の地震計は,海底もふくめて
全国約2100か所に設置されている。
右の写真の青井さんの足元にあるのが地震計の本体。

資料1

地震計は地上だけでなく,海底にも置かれ,
ケーブルでつながれている。
左は海底に設置されている地震計。
右は地震計をつなぐケーブル。

O君

緊急地震速報を初めて受け取ったとき,すごい技術だなと感じました。

東日本に住んでいる人が緊急地震速報を強く意識したのは,おそらく東日本大震災のあとで,たくさん余震が起きて頻繁に緊急地震速報が届いたときだと思います。
なんくんれんと同じように,緊急地震速報をくり返し受け取ることで,意識を高めることができ,実際に役に立つようになると思います。

インタビュー
O君

私も,緊急地震速報に慣れていないうちは,受け取ってもどうすればよいのかわかりませんでしたが,何回か経験するうちに,速報を受け取ってから実際に地震がくるまでにできることを考え,実行しなくてはいけないんだなと思うようになりました。

日本の小中学生は,地震が起きたら机の下に入るということが,本当によく訓練されています。このことと同じですね。
このような国は,ほかにはないと思います。

インタビュー
O君

仕事の大変なところはどんなところですか。

災害はたまにしか起こらないから,なかなか経験を積むことができません。
経験をしないというのはよいことなのかもしれませんが,いきなり大災害がやってくるわけなんです。
私たち専門家としては,有用と思われる技術をたくさん開発していますが,それを一般の人たちにわかってもらって,だんの生活のなかで実際に役に立ち,命を救ったり,被害を少なくしたりできるようにすることが最も難しくて大変です。
そのためには,一般の人たちにわかりやすく説明することがとても重要です。
一般の人にわかってもらえなければ,本当に役に立つ技術にはなりません。
ですので,できるだけわかりやすく説明することを心がけています。

インタビュー
O君

災害は起こらないことがいちばんよいですが,起こってしまったときに,開発していただいた緊急地震速報などの技術をうまく使えるようになっていたいです。

地震,津波,火山の噴火のように,本当に大きな災害は,しょうがい
1回経験するかしないかですから心構えをもつことが難しいですね。
たとえば,みなさんは天気予報を見れば,「大雨警報が出ているから,外出はひかえよう」などと自分なりに判断して心構えをすることと思いますが,地震,津波,火山の噴火については,大雨に比べると経験が少ないためにそのような心構えをもつことができない点が,ほかの災害とは大きくちがう点ですね。

インタビュー
O君

仕事のなかで数学はどのように使われていますか。

地震の分野において,数学がもつ役割は非常に大きいと思います。
たとえば,「緊急地震速報」は,各地点の震源からのきょとP波が届くまでの時間が比例の関係に,揺れの大きさがおおむね反比例の関係になっていることを利用しています。
地震が発生すると,まず震源に近い場所にある地震計がP波をとらえます。
P波をコンピュータで分析して震源や震度をすばやく推定し,S波が各地に到達とうたつする前に速報を出せるようにしています。
また,過去のデータから,今後起こる地震の揺れや津波のシミュレーションをし,ハザードマップを作るなど,実際に大きな地震が起こったときの被害を少なくするのに役立てられるようにしています。

インタビュー
資料0

P波とS波が到達する時間と震源までの距離の関係

資料1

ハザードマップについて説明してくださる青井さん。

O君

「緊急地震速報」を開発する動きは,どのくらい前からあったのですか。

地震が起きるとスイッチが入って教会のかねを鳴らして人々に知らせるというアイデアは,150年ほど前にすでにアメリカにあったようです。
近年急激にいろいろな技術が開発され,じょじょに実用化されてきました。
日本では,2007年に全国で緊急地震速報が実用化されました。

インタビュー
O君

計算などいろいろな技術がやっと追いついてきたということなんですね。
関数の考え方以外にも,数学の考え方を使っていますか。

地震がいつどのように起きるのかを正確に予測することは,とても難しいです。
地震学には数学も物理学も関わっていて,これらやシミュレーションを使って考えることができますが,地震が起こる状態をすべて知ることができるわけではありません。
このようなとき,統計的な考え方が役に立ちます。
日本中で地震が起きそうな場所では,過去にどのような地震が起きたのかがとてもくわしく調べられています。
50~100年前くらいまでの間であれば地震のデータがありますし,1000年前くらいでは日記などの記述が残っていることもあります。
さらに昔であっても,津波のあとが残っていたり,断層から土地の経歴がわかったりすることで,過去にどのような地震が起きたのかがわかり,地震と地震の年月のかんかくも知ることができます。
ただ,それは等間隔ではないので,統計的に解析することが必要です。
そして,次にいつどのような地震が起きそうかを予想してハザードマップを作ることがよく行われています。

音,光,力,電気,エネルギーなどに関する学問

インタビュー
O君

地震の解析は,関数や統計など,数学のいろいろな考え方を組み合わせて行われているんですね。
では最後に,中学生のころ,数学は好きでしたか。

好きでした。
私は覚えることが苦手なので,考えて答えが出せることのほうが得意でした。

インタビュー
O君

数学が好きだったということが,このお仕事にもつながっているのですね。

そうですね。

インタビュー
O君

全国の中学生にメッセージをお願いします。

実は,数学は社会のいたるところで使われています。
将来いろいろな場面で,数学の知識が役立つときがあると思います。
学校の勉強としてだけではなく,数学という学問に興味をもって学んでもらえたらよいと思います。

インタビュー
取材レポート

青井さんへの取材は,いばら県つくば市にある防災科学技術研究所で行いました。
取材を予定していた前日にくまもとで大きな地震が起こり,その翌日はこの地震の対応のための会議が東京で開かれました。
青井さんはこの会議へ出席されたため,取材は日程を変更して行いました。
これは,青井さんが日本の防災研究において,とても重要なお仕事をされていることを実感するできごとでした。
このような青井さんのお仕事にも,中学校で学ぶ数学がとなっていることがよくわかり,数学の世界のひろがりを改めて感じました。

レポート写真

防災科研には,1秒に1回全国からデータが送られてくる。データを映したモニターについて説明してくださる青井さん。

防災の研究者の数学に

チャレンジ

ある地震が起きたとき,震源から100km離れた地点で,地震が起きてからP波が届くまでの時間は17秒でした。
この地震で,震源から300km離れた地点では,P波が届くまでの時間は何秒であると考えられるでしょうか。