どのような仕事をしていますか。
ボーイング737という飛行機の副操縦士として,主に日本国内線と,中国,韓国,台湾などの国際線を担当しています。
国内線の場合は,およそ1日に3便から4便の乗務をしています。
どうしてこの仕事についたのですか。
小さいときから空が好きで,この空を大きい窓から見てみたいと思って,パイロットを目指しました。
くもり空のなかを飛行機で飛んでいって,すぽっと雲の上に抜けたときに広がっている晴れた空は何度見ても感動します。
でも,パイロットとして飛んでみて思ったことは,地上から見る空もやっぱりきれいだということですね。
仕事のやりがいはどんなところですか。
出発前に天気図を見て,「この高度は揺れそうだから,この地点から高度を変えていこう」などと,一緒に乗務する機長と作戦会議をしています。
実際に上空で,その予想が当たり,計画どおりにお客さまを安全・快適に目的地へお連れできたときにやりがいを感じます。
仕事の大変なところはどんなところですか。
私たちパイロットは,1年に1回,技量審査の試験を受けて,パイロットの免許を更新しています。
この試験では「シミュレーター」という機械を使って,火災やシステムの故障などの予期せぬ問題が起こったときにどのように対処するのかを試されます。
この試験に向けて,何か月も前から試験勉強をするのが大変ですが,その分,合格したときの達成感も大きいです。
たくさんの人の命を預かる乗り物なので,毎年免許を更新して,知識や操縦の技術を維持しているんですね。
ほかにも大変なことはありますか。
体調管理も大変です。この仕事は,早朝から始まる日もあります。
7時間から8時間寝ないと,翌朝すっきり起きられないので,朝5時40分に仕事が始まるとしたら,8時過ぎには寝なくてはいけません。
体調を崩さないように,睡眠時間には常に気をつけています。
仕事のなかで数学を使うのはどんなときですか。
世界各地の標準時の基準となる「協定世界時(UTC)」を,航空業界では「ズールータイム(Zulu Time)」と呼んでいます。
各地域の場所の時刻をズールータイムから計算して考えます。
日本の現地時間はズールータイムに対して+9 時間です。
フライトプラン(飛行計画)もズールータイムで示されており,日本出発時刻が「0805 Z(ズールータイム)」と記載されていた場合,日本の現地時間では,17 時5 分出発を意味します。
もちろん操縦席の時計(下の画像)もズールータイムで表示されています。
ちがう国の人と連絡をとるときもズールータイムの考え方を使います。
たとえば,私はアメリカのアリゾナ州フェニックス市で訓練を受けましたが,現地時間はズールータイムに対して-7 時間なので,日本との時差を計算すると-16 時間となります。
フェニックス市にいる教官や後輩の訓練生と連絡をとるときは,この時差をもとに迷惑にならない時間にするようにしています。
成田を出発する時刻とロサンゼルスに到着する時刻。 数字の横にあるZはズールータイム,Lはローカルタイム(その地域の現地時間)の略。
操縦席の時計。ズールータイムで表示されている。
時刻や気温を考えるとき以外には,どんな場面で数学を使っていますか。
飛行機は,すごく急な角度で降りているような感じがするかもしれませんが,実は3度がちょうどいい角度なんです。
ですが,どの地点から降り始めたらいいかを計算しようとすると,距離(単位マイル)と高さ(単位フィート)で単位もちがうため,とても時間がかかります。
飛行中にそのような計算を暗算しなくてすむように,地上で正確な距離と高度の関係を勉強して理解した上で,私たちパイロットは飛行中に暗算をする際に「ルールオブサム」を用いておおよその高度を求めています。
これは,距離に300をかけて,だいたいの高さを求める方法です。
たとえば,空港までの距離が10マイルあったら,10×300=3000フィートあれば,3度で降りられるということになります。
ほかにも,横風,正面の風,後ろからの風を計算するときや,飛行機が飛んでいるときにかかる重力の計算をするときは,三角関数★を使います。
★高校で学習します。
中学生のころ,数学は好きでしたか。
中学1年生の夏休みに,家族からドリルを1冊やるように言われて,やったら2学期から格段に成績がのびたんです。
目に見えて力がつきやすいし,苦手意識もなくなったので,それから数学が好きになりました。
数学は答えがはっきりと出るところがいいなと思います。
全国の中学生にメッセージをお願いします。
中学生のころに家族から「今だったら将来の可能性が無限にある」と言われたことが印象に残っています。
中学生のみなさんは将来に対する選択肢が無限にあるので,いろんなことに興味をもって,その興味をもった自分の気持ちを大事にして過ごしてほしいと思います。
出発前に機長とフライトプランを確認する。
安全かつ快適に目的地まで飛行機を飛ばすためには,天気図を使って,天気の確認も欠かせない。
師子鹿さんへの取材は,朝の羽田空港で行われました。写真を撮影している間も,窓の外では次々に飛行機が飛び立ち,航空業界で働く人たちの忙しさが伝わってきました。「パイロット」という職業はまだまだ男性が多いそうなのですが,師子鹿さんのように女性で活躍している方もいらっしゃいます。大変な仕事ですが,女子の中学生のみなさんにも興味を持ってもらいたいとお話をされていました。
取材中,笑顔でパイロットの仕事について語る師子鹿さん。
フライトプランに日本出発時間が「0530Z」と記載されている場合,日本の現地時間は何時になるでしょうか。