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Vol.1 化学の目で見る光合成
   その1  命と暮らしを支える光合成      
   
 食卓の上を眺めよう。野菜と果物は光合成の産物だ。牛や鶏は植物を食べて育った。魚は小魚を、小魚は動物プランクトンを、動物プランクトンは植物プランクトンを食べて育つ。だから魚も光合成の産物・・・というわけで、光合成に関係ないのは水と食塩だけとわかる。
 また、暮らしや産業に欠かせないエネルギーの大半は、石油・石炭・天然ガスなど化石資源から生み出す。化石資源は数億年前に生きた生物体のなごりだから、暮らしや産業を支えるのも植物の光合成だというわけ(図1)。
  図1. 私たちの命も活動も、光合成が支える
図1. 私たちの命も活動も、光合成が支える
 
 
ハカセ
 
       
   その2  光合成は化学の世界      
   
 ひとこと言うと光合成は、「光エネルギーが起こす酸化還元反応」になる。酸化では水から電子が引き抜かれて酸素が出る。還元では「水+電子→水素」に近い反応が進むため光合成反応は、
「2H2O + 光エネルギー  O2 + 2H2
だと思ってよい。
 できたH2(実際は特別な有機分子)は、そのあと10段階以上の反応で二酸化炭素CO2を還元し、グルコース(ブドウ糖)C6H12O6などの高エネルギー有機物に変える(図2)。
 図2に「光合成反応中心」と描いた部分は、約50種のタンパク質がつくる構造体だ。反応中心は二つあり、合計600個ほどのクロロフィル分子が光エネルギーを吸収し、電子を動かす。そして1gの緑葉は、反応中心二つを組にした「機能単位」を1,000兆個も含む。
  図2. 光合成反応のイメージ図
図2. 光合成反応のイメージ図
 
       
   その3  中身はまだまだブラックボックス      
   
 なにしろ複雑な構造体だから、分子レベルではまだ不明な部分が多い。つい最近、反応中心の片方が、ふつうのクロロフィル分子(図3の Chl a)と、分子の一箇所だけ構造がほんの少し違うクロロフィル分子(黄色で描いた Chl a' )でできていると判明。その Chl a' は、私たちが1985年ごろに発見した。植物を眺め、緑色の600分の1を占める色素を世界で初めて見つけたのだと思うたびに、なんだかうれしくなってしまう。
 もうひとつ。水草に光を当てると酸素の泡が出るのは、小学校でも見たことがあるだろう。けれど「水→酸素」の反応がどんなふうに進むのかは、いまのところほとんどわかっていない。私たちも研究を始めたばかりだが、すぐに結論は出ないと思う。化学を学んでこの謎に挑戦し、解き明かす人が、皆さんのうちから出てくれるよう祈っている。
  図3. 反応中心 I(P700)という部分の構造
図3. 反応中心 I(P700)という部分の構造
 
 
リカちゃん
 
   
東京大学生産技術研究所教授 渡辺 正(工学博士)
 

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